FC2ブログ

Entries

ヴェニスの商人の資本論【書評】

この人、頭いいなあってことが、文章の端々から伝わってくる。

さて、本書はヴェニスの商人の資本論をはじめとして、経済学の観点から資本主義、貨幣と媒介、不均衡動学、などについて小論をまとめたもの。かなりメタ・フィジカルな内容で経済というよりは哲学に近い。好みの問題だけど、個人的には具体的な数字から実証的にアプローチする方が好きだな。
 
最近、イノベーションに興味あって、その興味で引っかかったのが「遅れてきたマルクス」という小論。

自分の理解では、ここで扱っている話題は、「裁定取引(アービトラージ)」。

この記事では、社会最適の例としてアービトラージを取り上げた。「遅れてきたマルクス」も交易についてこう語っている(p95)


一方の価値体系の場において相対的に安い商品を購入し、それを相対的に高いもう一つの価値体系の場に運搬して売却する。それによって得られる相対価値の差額が、仲介する商業資本の利潤を形成する。
「高く売るために安く買う――それが交易の規則である。したがって、等価物どうしの交換ではない」、そうマルクスは言う。



僕が社会最適で指摘した「ゆがみ」とは、閉じられた市場と閉じられた市場とが結びつくことによって、商業利潤が創造すると。

そして、この市場の距離についての指摘が慧眼だ。(p97)


しかしながら、遠隔地公益が連続的になり、その規模が拡大すればするほど、それによって仲介された地域の間の経済的な「距離」は縮まる。それとともに、両地域で成立している価値体系もその「差異」を失っていく。結局、商業資本とは、二つの地域を一つの価値体系が支配する一つの市場経済の中に統合していく媒介運動にほかならず、それは自らの存立基盤を切り崩していく仕組みを内に備えていることになる。差異を仲介するとは、すなわち差異を解消することなのである。



これは、トーマス・フリードマンの「フラット化する世界」の議論と同じところに帰着するといえそうだ。つまり、インターネットによって「距離」がなくなる=「フラット化」によって、世界のグローバル化=”一つの価値体系が支配する一つの市場経済の中に統合”されると。

この差異の解消=アービトラージはどこに問題があるか?岩井はマルクスの剰余価値を引き合いにこう指摘している。


剰余価値とは、価値の蓄積を目標とする産業資本家と、自らの労働力を商品として自由に処分でき、同時に自らの労働力を生産物の形で実現するための生産手段からは切り離されているという「2重の意味で自由な」労働者が、市場で接触することによって生ずるというものである。



つまり、剰余価値とは産業資本家が労働者を酷使することによって生まれていると。

「遅れてきたマルクス」の真骨頂は、このマルクスの言説を「遅れてきたマルクス」=シュンペーターの「革新」に結びつけるところだ。

マルクスは「革新に成功した企業家の手元に残る超過利潤」を「特別剰余価値」として定義した。シュンペーターはこの特別剰余価値をさらに一般化して、こう述べる(p108)。


シュムペーターの企業家たちは、お互いどうしの技術革新競争を通じて絶えず一時的な「遠隔地」を創り続けている―――いわば、「未来」という遠隔地を。この「未来という遠隔地」で成立している価値体系と直接接触できるのは、未来の技術的条件を先取りできいた、すなわちいちはやく技術革新に成功した企業家だけである。そして、この未来の価値体系と現存の価値体系との間の差異が、企業家の利潤あるいはマルクスのいう特別剰余価値にほかなならない。



たとえ、インターネットが普及し、世界がフラット化しても、技術革新を通じて「遠隔地」が存在する。そして、その「遠隔地」=ゆがみを発見することが、アービトラージ(裁定機会)=特別剰余価値を生むと。

そう考えると、まだまだ世の中には社会最適の機会はたくさんありそうだ。


ヴェニスの商人の資本論 (ちくま学芸文庫)ヴェニスの商人の資本論 (ちくま学芸文庫)
(1992/06)
岩井 克人

商品詳細を見る
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
http://bemasterof.blog24.fc2.com/tb.php/71-eb845cad

トラックバック

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

プロフィール

kengo

Author:kengo
コンセプト:
①ブラックボックスとしてのITを解きほぐす:どんどん便利になっていくIT、便利になる反面、ブラックボックスになっているもの事実。ブラックボックス化しつつあるITを解きほぐしていきます。

②エンジニアのためのファイナンス:ファイナンスは企業全体を見るツールとしてとても重要。企業そしてビジネス全体をどう見ていくか、そんな情報を提供します。

③映画・書評:IT・ビジネス系の書評、見た映画についてつづっていきます。

メールはこちらまで




Disclaimer
このBlogは長橋賢吾の個人的な考えを掲載したものであり、長橋賢吾が所属ないし関係する機関、組織、グループ等の意見を反映したものでありません。

MicroAd

FC2アフィリエイト

旅ポケドットコム

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

アクセス解析

reviewplus